脳血管障害の兆候や危険因子を探る脳ドックの検査

脳ドックの検査項目は、実施施設によって多少の違いがありますが、検査の中心を担うのはMRI(磁気共鳴断層撮影)とMRA(脳血管撮影)、頸動脈エコーなどの画像診断です。そのほか、脳波検査、心電図検査なども行って、多方面から脳の病気(隠れ脳梗塞、脳動脈瘤、頸動脈狭窄症ほか)の兆候や、脳卒中の危険因子(高血圧、糖尿病、心疾患、動脈硬化)を探ります。

脳血管障害を調べるMRI・MRA

脳ドックの検査時間は約2時間です。検査結果は専門医(脳神経外科、神経内科医)が面談して説明してくれる医療機関を選びましょう。一部の施設では結果説明は書面のみ(後日郵送)というところもありますが、これでは十分ではありません。

検査を受けたほうがいい人とは?
日本脳ドック学会では検査の推奨年齢などは定めていませんが、高血圧、糖尿病、喫煙、肥満などの脳卒中のリスク因子が当てはまる人は、一度検査を受けて脳の健康状態を確認してもらうとよいでしょう。

MRI(磁気共鳴断層撮影)
磁気と電磁波によって縦横斜めあらゆる方向から脳の断面画像を写し出す検査です。MRI検査では発症間もない脳梗塞の病変や小さな梗塞などもはっきりと映し出せます。

MRA(脳血管撮影)
MRIと同じく磁気共鳴という物理現象を利用して、血管を立体画像として映し出す検査です。動脈硬化が進行して血流が細くなっている血管を発見したり、動脈瘤を発見することができます。

頸動脈エコー
脳へ血液を送っている頸動脈にエコー(超音波)をあてて、血管の内膜+中膜の厚さ(IMT)を測定することで、血管内にプラーク(脂肪の塊)と呼ばれる隆起や狭窄・閉塞が存在しないかを調べる検査です。

IMTが1.1mm以上の場合は血管の異常な肥厚と判断され、動脈硬化が進行していることを意味します。動脈硬化は「沈黙の病気」と呼ばれ、脳卒中(脳梗塞、クモ膜下出血、脳出血)を引き起こすため、脳ドックで頸動脈エコーは欠かせません。

プラークの有無を調べる際には頸動脈エコーが最も信頼性が高いため、MRIで既に頸動脈の血管状態を検査してもらった人も、頸動脈エコーの受診がすすめられます。

脳波測定
脳の電気的な活動状態を調べる検査で、脳梗塞のほか、脳腫瘍、てんかん、認知障害などの発見に役立ちます。

心電図
心房細動という不整脈が出現している場合は、血栓が作られやすくなり、血流に乗って脳に達すると、脳梗塞の一種である「心原性脳塞栓症」を突然引き起こすことがあるのでこの検査を行います。

しかし、短時間で自然消滅するタイプの心房細動は通常の心電図では発見できないので、小型の携帯型心電計を長時間装着して計測を行う「ホルター心電図検査」を実施します。

血圧測定
高血圧は脳卒中(脳梗塞、脳出血)の最大の危険因子となりますので、血圧の測定は欠かせません。血圧管理は脳卒中の予防の観点から極めて重要です。

血液検査
脳卒中の危険因子となる高血圧や糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどの全身の病気や血液成分の異常を調べるために、脳ドックでは血液検査を行います。

尿検査
糖尿病になると血管壁が厚く、また硬くなって柔軟性が失われ、血液の通り道が狭くなる「動脈硬化」を引き起こしやすくなります。そのため、脳ドックでは糖尿病などを探るための尿検査が行なわれます。

眼底検査
眼球内の奥の部分(眼底)の状態を専用のレンズで観察する検査のことで、高血圧や動脈硬化ともなう血管の変化などがわかります。

脳ドックの検査費用
脳ドックの料金は健康保険の適応外となるため3〜10万円と高額になる傾向があります。お勤めの企業の健康保険組合によっては検査費用の一部に補助金が出ることもあります。

脳の異常が発見されたら年1回の頻度で再検査を受ける

上記の脳ドックの検査で脳動脈瘤やラクナ梗塞(隠れ脳梗塞)などの異常が発見されて「経過観察」と診断された場合、年1回くらいの頻度で脳ドックを受診することが勧められます。

脳卒中の危険因子の管理が重要

隠れ脳梗塞は、発症部位によっては頭痛や言語障害、麻痺、視野障害などの自覚症状がないまま脳の複数の箇所にできて、いずれ脳梗塞の発作を起こす恐れがあるためです。また脳動脈瘤も自覚症状がないまま大きくなって、クモ膜下出血の引き金になる危険性もあります。

また脳ドックの初回検査時はギリギリ基準値内だった血圧、LDLコレステロール、血糖値なども特に自覚症状がないまま数値が悪化している可能性もあるため、「1年間気になる症状はないから脳ドックの検査はもうしばらく受けなくて大丈夫だろう」と自己判断するのは危険です。

次回の受診時にMRIやMRA、頸動脈エコーで再度調べた結果、血管が詰まった部位の数が増えていなかったり、脳動脈瘤の大きさに変化がない、頸動脈の動脈硬化が進行していないと診断されれば、生活習慣の改善を通じた危険因子の管理が適切に行われているということです。

一方、脳ドックの再検査で動脈硬化が進行していたり、脳梗塞の数が増えているようであれば、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの危険因子の管理や治療を見直す必要があります。

勿論、初回から再検査までの期間に脳卒中を疑う症状や、脳梗塞の前触れ症状(TIA:一過性脳虚血発作)が出現した場合は、次の受診スケジュールに関係なくすぐに脳神経外科などの医療機関を受診しましょう。

脳ドックの検査を受ける際の注意事項、禁忌

脳ドックの検査にMRIは欠かせませんが、強力な磁場が発生しているMRI検査室の中では、金属は吸引されてしまいます。また金属がMRI室内に存在するとラジオ波によって人体に損傷を及ぼすリスクがあります。さらには医療機器や精密機器の誤動作を引き起こす原因にもなります。

MRIの画像解剖

したがって、脳ドックを受ける際には検査前に装着しているすべての金属(ピアス、ネックレス、腕時計、メガネ、補聴器、ヘアピンなど)は取り外す必要があります。スマートフォンや磁気カードなどの持ち込みも当然NGとなります。

また脳動脈瘤クリップ(チタン製以外の製品)、塞栓コイル、ペースメーカー、人工弁、植込み型除細動器、人工関節、人工血管、歯科用インプラント、避妊リングなどが体内にある人、妊娠中、妊娠の可能性がある人はMRI検査を受けることはできません。

MRI検査は体を横にして、頭部を筒状の装置で覆われた状態のまま30分程度じっとしている必要があります。そのため閉所恐怖症の方は脳ドックを受けられない可能性があります。頭部を覆わないオープンMRIを導入している脳ドックもありますが、普及にはまだ時間がかかると思われます。

脳ドックを実施する医療機関は、MRI対応の車いすやストレッチャーを用意する必要があります。通常の車いすやストレッチャーを使用すると重大な事故につながります。

通常、脳ドックのMRIに造影剤を使用することはありませんが、検査内容によっては使用の可能性もあります。ただし、腎機能に障害がある人、透析治療を受けている人、喘息やアレルギー歴には原則として造影剤を使用することは禁忌となっています。

脳ドックは人間ドックと同様に健康な人が受けるため、検査費用は公的健康保険の適用対象となりません。つまり、脳ドックで提示される医療費は全額自己負担となりますので、ご注意ください。

Copyright(C)2018 脳ドックの基礎知識 All Rights Reserved