脳の断面画像を得るMRIで隠れ脳梗塞を早期発見

MRIはX線ではなく、磁気の共鳴を利用した画像抽出法で正式名称は「磁気共鳴断層撮影」といいます。強い磁場を作り出すトンネル状の大きな磁石の中に体を置き、ラジオ波という高周波の電磁波を当てたときに、体内の分子がそれを吸収して送り返してくる反応をコンピューターで読み取り、画像として描き出します。

脳梗塞の病変を診断

CTでは輪切りにした画像しか映し出せませんが、MRIでは縦横斜めなどあらゆる方向から自由に脳の断面画像を写し出すことができます。磁気は頭蓋骨に邪魔されることはありませんので、CTでは見逃されやすい骨の陰に隠れている部分の映像まで、鮮明に映し出されます。

脳梗塞を起こした場合、発症から24時間以内のCT検査では、病変を映し出すことはできません。これに対し、MRI検査は「拡散強調画像」という撮像方法が可能なため、発症間もない脳梗塞の病変や小さな梗塞などもはっきりと映し出せます。

日本人の脳卒中の3/4は自覚症状が全く現れない脳梗塞で占められていますが、MRIは脳梗塞が小さな病変、いわゆる「隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)」の段階で早期発見する際に有用です。

したがって脳ドックではこのMRI検査は必ず実施されます。また脳梗塞の前触れ症状として現れることがあるTIA(一過性脳虚血発作)や脳腫瘍の早期診断もMRIの検査対象となります。

MRIには以下のような撮像方法があります。

T1強調像
T1強調像は脳の解剖学的構造を捉えやすく、形態異常を発見しやすいという特徴があります。一般的に水の存在する部分が黒くなり、白く(高信号)なるものは特異的な信号といえます。T1強調像で白く映るものは脂肪、出血、ゆっくりした流れの血管、高タンパク液などが挙げられます。

T2強調像
水分が白く(高信号)なるように強調する撮像する方法で、病変の拾い出しに有用です。脳梗塞や脳浮腫などの病変部には水分が多く含まれているので、病変の水分の含有量によって示す信号の強さが違ってきて、組織コントラストが高い画像になります。

FLAIR
水に接した病変の検出や水の中の病変の検出に有用で、皮質梗塞や側脳室周辺の脳脊髄液に接する病変の評価に使用されます。

拡散強調像(DWI)
発症間もない急性期の脳梗塞の診断に有用です。

脳ドックのMRIで異常が見つかった場合、結果説明では「無症候性脳梗塞」、「白質性病変」、「慢性虚血性変化」などと指摘されますが、いずれも意味するところはほぼ同じです。すなわち、動脈硬化が進行したことで脳の血流が悪くなり、脳の毛細血管に血液が行き届かずに脳に変化が見られるということです。

MRIを受ける際の注意点、受けられない可能性のある人

MRI室は強力な磁場となっているため、メガネやネックレス等の金属類を身につけた状態で入室するだけでも危険です。入室の際には検査技師の指示を必ず守るようにしましょう。

1.5テスラ以上の装置が理想

心臓に持病があってペースペーカーや自動徐細動器を使用している人、血管のステント留置術を2か月以内に受けた人、チタン製以外の脳動脈瘤クリップが入っている人、妊婦さんはMRI検査を受けることはできません。

検査中は、頭全体をガントリーと呼ばれるトンネル状の狭い空間(上の写真参照)に入れた状態で、「ゴンゴンゴン!…」「ガンガンガン!…」そして時折「ビッ、ビッ、ビッー!…」という音がエンドレスで流れるので、閉所恐怖症の方はあらかじめ医師に相談しておいたほうが良いでしょう。

閉所が苦手、体調の急な変化が不安な高齢者、一人が不安な子供でもMRI検査がスムーズに実施できるように、装置の側面が完全に解放された「オープン型MRI」も登場しており、大きな脳ドックでは導入が進んでいます。

MRIの性能は、「テスラ(T)」という単位で表され、この数値が大きいほど高性能かつ検査時間も短くてすみます。脳ドックを実施する医療機関の大半は1.5テスラもしくは3.0テスラですので、性能的には十分です。検査時間は30分から長くて40分です。

私が実際に検査を受けた感想としては、検査中は視界が遮られますし(目の前はMRI装置)、耳栓をしても装置の騒音が大きく、気を紛らわせる術がなくて30分が凄く長く感じられました。

手元には室外にいる検査技師を呼ぶためのボタンを握っているので、「気分が悪くなったらどうしよう…」という不安はまったくありませんでした。

近年は一部の脳ドックで、従来のCTよりも画像解析度が高く、MRIよりも検査時間が大幅に短縮されたマルチスライスCTが登場しています。

MRIはCTと違って放射線の被ばく量がゼロなので、何度でも検査を受けることができます。したがって、CTの高性能化が進んだとしても、今後も脳ドックの画像診断の主役がMRIであることは間違いありません。

MRIが微細な脳出血、隠れ脳梗塞など自覚症状に乏しい「脳本体の異常」を発見するのに対し、同じMRI装置を使用して、未破裂脳動脈瘤などの「脳の血管の異常」を描出するのがMRA(脳血管造影)と呼ばれる検査手法です。

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